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先輩の死 [いわゆる日記]

7/1(火)夕方、デスクで仕事中、携帯がなる。

 かつて一緒に仕事をしていた先輩からだった 「おい、Sが亡くなったって聞いたがほんとうか?」

いやな予感がした。Sさんとはこれまた一緒に仕事をさせてもらい&今もしている先輩。実は年末にとある病気で入院され、その時はすぐに退院されたが、その後、通院での闘病をされていた。3週間ほど前から自宅での療養になられたと聞いていた。すぐに確認がとれた。悲しいけどそれは事実だった。

 彼との出会いは今から20年近く前になる。店舗開発系の仕事に異動した僕はとある店舗のオープン準備に出張した。そこでレジ周りでなにやら登録作業をしていたのがSさんだった。彼はPOSシステムの開発を担当していた。新入りの僕に気軽に声をかけてくれた。POSとはなんぞや、を教えてくれたりもした。店舗のオープンは1週間近い出張生活になるので仕事が終われば一緒に行ってるメンバーで毎晩のように食事&呑み会になる。自然、僕の属する部だけでなく店舗オープン関連の多くのメンツが一つの部隊のようになる。その部隊のボスが遊びの達人でいろんな遊びを教わった。その中でも当時まだ珍しかった本格的なオートキャンプにはその部隊の仲間で週末よく出かけた。キャンプの焚き火の前で聞いたSさんの仕事話、学生時代の逸話などで笑い転げた。K大学速記部の話など今でも思い出しては笑ってしまう。サバイバルゲームも一緒にやったなあ。Sさんはベテランだったので赤外線スコープで照準を合わせられて狙い打ちされた。痛かった。その後、全国の店舗からPOSデータをこれまた当時珍しかったパソコン通信をつかって集計するとか一緒に新しいチャレンジを楽しませてもらった。

 そして数年後。いくつかの仕事を経験し、その頃関わっていた仕事から唐突に新規事業の立ち上げに招集された僕は少々自棄になっていた。サービスビジネスがせっかく面白くなってきたのにまたモノ売りかよ。集めらた4人の中にSさんもいた。彼はそれまでやっていた仕事が10年の長きにわたると言う理由で人事からキャリアプランとしてその仕事に配転されたそうだ。4人のうち、Sさんと僕がこれから取り組む分野の経験がなかった。課長とその4人で一からビジネスを構想し立ち上げる。壮大で志の高い仕事だった。(大変だったけど) 発売開始まで1年。目指すビジネスの方向性について大いに議論した。ハーレーダビットソン、ディズニー・・・様々な事例も学んだ。ある時、サポートはどうあるべきかで出先で二人の議論になった。出先からもどった東京駅丸の内北口の今はなきレストランでビール片手に議論の続きをした。まだこれまでのやり方の延長線上にあった彼の案に、僕がつっこむ。その場の議論では制約のない僕の案が勝つ。Sさんは悔し涙を流して反論する、そんなこともあった。今も続いているある制度を一緒に作り上げたのもこの頃の話。目標達成のためにちょっと仕掛けをした。ただ、お客さんにはちょっと、という側面もあったその仕掛け、やっとその仕掛けをやめることができ、お互いほっとした顔になったのは数年前のことだ。

 様々な議論、準備を経てビジネスはスタートした。今から11年前の夏。最初は泣かず飛ばず。売れない。そりゃそうだフル装備で超高価格。少人数のチームだったので、Sさんは本業のシステム&オペレーションの他にこの初代機種の商品担当もしていたなあ。売れなかったけど業界の人々からは好意を持って受け入れられたと今でも思う。それはそうと一方で大変なことが起きていた。システムがうまく動いてないのだ。それまでにない概念を入れたその仕組みはうまく機能しなかった。オーダーを受ける集計する、ここがうまくいかない。彼は超人的なリカバリー作業に入る。それから数ヶ月、人力から始まったリカバリーは多くの人の努力もあり見事に立ち上がった。それと時を同じくして大ヒットモデルが登場。我々のビジネスは大きく飛躍することになった。

 その後も僕が関わる新規事業にいつもサポートしてくれたSさん。年に何度か時間をもらって近況報告をしてきた。その都度、あのときの議論のあの場所に戻れたような気がした。お互いの仕事の仕方の原点というかそういうものが同じところにある心地よさを感じた。そして、昨年秋、とあるプロジェクトでまた一緒に仕事ができることになった。毎週のミーティングであの頃と同じように議論をした。何度かの段階を経てそのプロジェクトは進行した。

 今春、僕はそのプロジェクトの仕事に専念することになった。彼も全面的にサポートしてくれる体制だ。だが、さあ、いよいよという段階になってSさんが病に冒された。通院での治療ということ。とある日の午後、彼のデスクを訪ねた。
「年末見舞いに来てくれたろ、あの時にわかってればなあ」

「悪性の腫瘍なんだよ、ガンってヤツ」

「でもよぉ、闘ってみるよ、後で本でも書くかな」
相づちをうつのが精一杯だった。彼のデスク周りの人にも聞こえてるんじゃないの、大丈夫?それから程なくして彼の姿を社内で見かけることがなくなった。悪い予感がなかったわけではない。でも、またどこかの会議室で会えばすぐにこれまでと同じように議論ができる気がしていた。

 知らせを聞いた日の夜。僕は仕事のつきあいの酒席の予定が。Sさんの葬儀関連の日程を確認し、酒席へと向かう。会社を出る、いつもと同じ街、いつもと同じように忙しそうに歩く人々。混雑する駅。なんだかSさんが亡くなったという実感がない。「あっけないなあ」と思う。確かに悲しい。やるせない。自分も死んだらこうなんだろうか。僕の中ではとても大事な人がいなくなったのに、人が一人死んでも、世間はなにも変わらない。セカチューでアキが亡くなった時のサクちゃんの心境が(色気はまったくないが)わかるような気がした。

でもなあ、またひょっと現れそうな気もするんだなあ、Sさん。
「おいI氏(僕のこと)、また一緒にやろうぜ」

 


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